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2021-05-13
2021-05-13
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ブックレビュー: 哲学シンキング

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1. はじめに

 「哲学シンキング」は,吉田幸司氏によって執筆されたビジネス書です。マガジンハウスによって出版されており,紙媒体の他,Amazon Kindle や 楽天 Kobo などの電子書籍版も販売されています。

 本書では,「マーケットにおける潜在的なニーズは何か?」や「人生における幸せとは何か?」などのビジネスや人生において答えが一意に決まらない問いに対して,「哲学」を応用して思考を加速させる「哲学シンキング」という思考法について記述されています。

 本記事では,本書で記述されている内容の中から「哲学シンキングの概要」と「グループディスカッションへの応用」,「実践時のテクニック」に絞って記述します。

2. 哲学シンキングの概要

 「哲学シンキング」は,上記でも述べた通り,答えが一意に決まらない問いに対して「哲学」を応用して思考を加速させる思考法です。公式サイトでは 5 つのステップから構成されていますが,本書では以下の 4 ステップから構成されています。

  1. 問いの収集
  2. 問いの整理
  3. 議論の組み立て
  4. 本質の発見

 従来の思考法では「マーケットにおける潜在的なニーズは何か?」という問いに対して「ニーズは X である」や「人生における幸せとは何か?」という問いに対して「幸せとは X である」などの回答を導くのが目的になっていました。しかし,「哲学シンキング」では回答を導くのではなく本質的な問いを深堀することが重要視されています。

 そのため,ステップ 1 においても「マーケットにおける潜在的なニーズは何か?」という問いに対して「ニーズは X だと仮定する」や「他のマーケットと類似している」などの主張ではなく,「ニーズは X だろうか?」や「他のマーケットと類似しているだろうか?」などの問いとして拡張しています。

3. グループディスカッションへの応用

 前章では「哲学シンキング」を一人で行う場合を想定していましたが,「哲学シンキング」はグループディスカッションにも応用することが出来ます。「哲学シンキング」をグループディスカッションに応用する際の注意点として「ファシリテーターは誘導尋問的質問を投げかけないこと」と「発言者は主張ではなく問いを投げかける」が記述されています。

 「ファシリテーターは誘導尋問的質問を投げかけないこと」は,一般的なグループディスカッションにおいてもバイアスがかかった議論を避けるために重要なことです。「発言者は主張ではなく問いを投げかける」に関しては,より本質的な問いを発見すると同時に主張や正論を振りまく参加者への抑止力として働くと記述されています。

4. 実践時のテクニック

 「哲学シンキング」を用いたグループディスカッションを実践する際のテクニックとして「ホワイトボードやポストイットを使わない」ことが記述されています。一般的なグループディスカッションでは,ホワイトボードやポストイットを用いてグループ全体の意見を統一させて進行する場合が多いです。しかし,本書では「ホワイトボードやポストイットなどで共有された情報は参加者の思考を阻害する」と記述されています。だたし,情報量が膨大な場合は情報の整理で使用することは有効であるとも記述されています。このテクニックに関してはグループの性質や議論するテーマによって,臨機応変にスタイルを変えるのが良いと思います。

5. おわりに

 ここまで,「哲学シンキング」に記述されている思考法の概要や応用例などについて記述してきました。本書では,ソクラテスやプラトンなどの有名な哲学者の業績が随所に散りばめられており,思考法の指南書であると同時に哲学の入門書としての側面もある書籍です。

 本書に記述されている問いをベースに思考を拡張し,本質的な課題を発見するアプローチは画期的だと思います。しかし,課題を設定した後の仮説検証や行動などに関する記述は少ないため,「哲学シンキング」のみで問題を解決することは難しいと思います。あくまでも課題設定に特化した思考法であり,問題を全て解決する万能法ではないことを肝に銘じることが重要です。